第4章 面影

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「あんまり島原の女やと知られるんが嫌なんどす。 もうええどすか? うちはお座敷の準備をせなあかんのやけど……」 なんとか切り抜けて、早々に帰ってもらう他ない。 「君さーー」 「おい、平助! そろそろ帰るぞ」 「………!」 聞こえてきたのは土方さんの声。 ちょうどいいところに上がって来てくれた。 どうやら話は終わったらしい。 このまま帰ってもらえれば……。 「藤堂はん、困りますえ。 うちの娘ん部屋に上がろうとしてはったんどすか?」 「はっ!? や、違います!」 「そうなのか? 珍しいじゃねえか、お前がそんな行動をとるとはな」 「違えって言ってんのに!」 揃って笑う二人に藤堂さんが反抗するが、どうやら無意味らしい。 未だ笑い続けるのを見て諦めたようだ。 がっくりと肩を落とす藤堂さんを見た土方さんは再び「帰るぞ」と急かす。 「土方さんは先に行ってて。 俺はこの子と話があるんだ」 「はぁ? そいつと話してえんなら買えばいいだろうが」 「だから、そういうんじゃねえから!」 「わかったよ。 ったく、じゃあ先行ってるぞ。 日が暮れる前には帰れ」 「おう、ありがとう」 勝手に話が進むのに口を挟めないでいれば、なぜか藤堂さんが残ることになってしまったようだ。 「ここで話すのもなんだしさ。 部屋に上がらせてもらおうかな」 ニヤリと笑うその人に、嫌な予感しかしなかった。
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