憂鬱な時間

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 僕はね、高校の教師をしていたんだよ。  おやおや、意外な顔をしているね。  今は、小さな塾を開いているだけなんだが、前は野心家でね、ピアノの演奏家を目指しながら教師をしていたんだ。  大学時代の恩師が創設した学園で僕はその恩師とのコネもあって教師になることができたのだよ。  ああ、悪かった。  君はまだ幼いのに、大人の裏事情を話してしまった。おっと、そんなに怒るなよ。子供扱いはもうしないよ。  僕はね、ただ、自分がマエストロっていわれる日々を夢描きながら、いつもピアノに向って演奏していた。  寝食忘れて、演奏していた時もあったな。  夕方から弾いていて気がついたら朝だったとか。  なにを考えるのにも、ピアノ中心だった。  飯を食べているときも、あの部分はもっとゆったり弾こうとか、この部分はもっと激しくとか、そんなことを考えているばっかりだから、他のことは見向きもしなかった。
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