地下へ

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 熱いお湯をバスタブに勢いよく入れると、浴室はたちまち湯気で白くなった。  棚にある何十年も使っていない小瓶が懐かしい。  小瓶を取り出して開けてみると、年月が重ねることに濃密になった香りが鼻について、思わず苦笑いをしてしまった。  一滴垂らせば、強烈な香りが少しはおさまって、懐かしい香りになる。  薔薇の、あの、濃密な香り。  目を閉じれば、肺まで香りが満たされ、体中に巡っていく。  久しぶりにお湯につかったせいか、皮膚の角質が、思いのほか取れていく。  しわくちゃの手から、こすればこするだけ皮膚が浮き出ていった。
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