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パトロン #2
風が強く吹いている。
窓辺を見ると、木枯らしが、空を待っていた。
もう季節は秋だ。
ああ、君か。君も律儀にサンドイッチを持ってきてくれたんだね。
ありがとう。
今日は冷えるね。
済まないが、暖炉をつけてくれないか。
君が帰ってから、ヨシュアのことを考えていた。
かわいそうなヨシュア。
孤立孤高として、どんなことにも媚びない凛々しさがあった。
それが、僕の前では、なんとも大人しく、僕に好かれようとあれやこれやと世話を焼いてきた。
ああ、
思い出したよ。
ヨシュアの本名は、
ヨシュア・フォン・ラインイッヒ・フォスナー。
こちらの名前は長くて覚えきれないね。
特にヨシュアは貴族でどこが名前でどこが苗字かわからなかった。
僕の名前なんて、二個しかないよ。
在り来りな名前さ。
彼が住まう邸宅、優美なる世界には、とんと無縁の人生。いや、厳密的には、僕の生まれ故郷では、無縁の世界だった。
これでも、音楽家だからね、そういう種類の人の支援とか受けるから、なんとなく、ヨシュアの世界も理解していた。
理解、せざる負えなかった。
いきなり、彼の両親が僕を訪ねてきてね。
なんと、パトロンになってくれると言ってくださったんだ。
一瞬、なんのことかわからなかった。
だって、パトロンなんて、日本じゃ聞かない言葉だったし、一瞬、ヨシュアのみならず、ヨシュアの父親まで、体の関係を持たなければならないかと思ったくらいさ。
でも、本当は違った。
ヨシュアの強い推薦で僕の音楽家としての人生を開こうとしていた。
まぁ、貴族様の娯楽というべきか。
アルフレッドの身体を手に入れるために、ヨシュアを手に入れたのに、パトロンとは、本当に恐れ入ったんだよ。
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