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「全部取れてたらいいけど」
「……ん…?」
私の唇を啄みながら彼が囁いた。
彼の甘い唇の動きに酔いながら聞き返す。
「中途半端に残ってると悲惨だな、化粧って」
「や…っ、もう、いや!」
汚い顔も騙されたことも恥ずかしくて、彼の胸に両手を突っ張って暴れた。
戸川君は真っ赤になって怒る私の顔を押さえ付け、唇にちゅっと音を立ててキスをくれると、笑いながら起き上がった。
両手で体を隠そうと慌てる私を、
そっと掛け布団で包んでくれる。
苛めたかと思うと、
ふわりと優しくなる。
そんな彼の顔を見上げながら、
訳もなく涙が出そうになった。
どうしようもなく、
私は戸川君が好きだ。
昨夜の告白と、それに続く行為の余韻を残しながらも、完全には甘くならない私たち。
でも、それでいい。
急な変化は、いつか反動が来て引っ繰り返されそうで怖いから。
「早く洗わないとな。
酸化するぞ、顔」
「……ひどい」
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