第1話【鏡魔の夜】

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家を出て裏に周り、自宅の敷地内から出れば、まだ砂利道で舗装されていない道がある、車なら小型車がスレスレで通れる程度の幅しかなく、基本的に工事をしている業者が専用に使う道路らしい。 この砂利道を歩いて奥の方へ行くと、新しく建てられた住宅街の向こう、反対側にある、昔からある道路も見えるのだが、工事で取り壊されている途中の古い家があった。 詳しくは良くは知らないが、オレたちが来る前から近場に住んでいる人の話だと、歩道を作る為に住人に立ち退き命令が、市から出たらしい。 何でも凄く仲の良い男女のカップルが、隣り合わせに住んでいたとか、でも立ち退き命令で引っ越しを強要されたと言う事は、そのカップルは少なくとも離れ離れの家に移ったのは間違いない。 今までずっと恋人が隣の家に居たのに、やむを得ない事情があったとは言え、離れた家に移るしかなかったのは、非常に悲しい事だったろう。 もし同じ街、同じ地区内に引っ越したなら、まだまだ会おうと思えば会える筈だ、少なくともそうであって欲しい、オレは名前も知らないカップルの幸せな関係が、まだ続いているのを内心で応援していた。 さて、話は戻すが家の裏の砂利道を越えると、そこはもう森だ、昔に比べると工事で伐採されたヶ所も少なくないらしいが、それでも都会育ちのオレには、広大な森に見えた。 一歩、また一歩と草や落ち葉、謎の雑草や折れた枝などを踏みしめながら、森の中を歩く。 「へえ~、本当に森の中って涼しいのね、これなら本格的な夏が来ても、ここで凌げるわ」 「まさに天然のクーラーだよな」 なんとなしに地面を見ると、落ち葉の隙間や、そこらの枝やら植物の茎に小さな虫がくっ付いている。 「げげっ、でもやっぱり虫は居るんだ、森だから仕方ないか~」 「森なのに虫が居ないとしたら、それはそれで怖いと思うぜ、虫が生きられないくらい土に毒性があるとか」 「うげぇ、そんな森だったら、すぐ近くに住んでる私らも影響ありそうだね」 「無いとは言えないだろうな」 そんな雑談をしていると、森の中の開けた場所に、ロープが枝にぶら下げられ、丸太が繋がっている物を発見した。 「なにコレ?」 姉ちゃんが疑問の声をあげる、だがそんなに悩むようなモノでもない。
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