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寂しい夜
公園で、猫が死んでいた。
時刻はたしか夜の九時頃で、コンビニでのアルバイトを終えてアパートへ帰る途中だった。
街灯が少なく辺りは真っ暗で、それでもそこに猫がいるとわかったのは、ふと顔を向けた先の公園に、何かの塊が落ちていることに気づいて近づいたからだ。
滑り台に、ブランコに鉄棒。
定番の遊具しかない小さな公園の真ん中で、その猫は死んでいた。いったいどういう死に方をしたのかと思うほどに全身は血の赤で染まり、真っ白だったはずの毛並みを台無しにしていた。
そのあまりの凄惨さに、目をそらした。
そしてそのまま公園の片隅へ行き、穴を掘った。そして持っていたタオルでそっと持ち上げて、埋めた。
それは、偽善だったのかもしれない。たとえ誰も見てなくても、自分の中でだけでも心優しい人間でありたかったのかもしれない。
どちらにしても、放っておくことはできなかった。
暗く寂しい公園に、一人、倒れていたあの猫を。
神隠し事件
1
スーパーでの買い物は、澤田圭介の日課だ。
この春から地元の高校に通っている彼は、近くのアパートで一人暮らしをしている。アルバイトをしているとはいえお金のない彼は、自炊をして節約をしなければならないし、そのためにはこうしてスーパーで安い食材を探さなければならない。
澤田はひょいと、目に止まったもやしの袋を持ち上げた。
すると右肩の上から声が聞こえてくる。
「サワダ、今日の夕飯はなんだ」
ちらりと目線を向ければ、飛び込んでくる真っ黒で滑らかな毛並み。しかしその左足だけは、なぜか真っ白。澤田の右肩の上に乗り、悠々と尻尾を振っている彼女はお世辞抜きで美人、いや美猫だ。
「野菜炒め」
思いっきり潜めた声で、澤田が答えた。
それは周りの買い物客たちを気にしてのことだ。彼女の姿は、澤田以外の誰の目にも映らない。声も、澤田以外の誰にも届かない。
そんな彼女の問いかけに普通の声で答えてしまったら、澤田は間違いなくでかい独り言を言う不審者にされてしまう。
「また野菜炒めか」
不満そうに彼女が言う。
「仕方ないだろ、にんじんが余ってるんだ。それに野菜は体にいいし」
「いいや違うっ!」
耳元で声を張り上げられて、澤田の耳がキインとする。
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