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「は……はは」
乾いた笑いが漏れて、もう頭の中が真っ白を通り越して、真っ青だ。
「なんで……なんで……」
頬を伝う暖かい雫が外気に冷やされて、その温度が次第に肌を刺す。
ああ、涙……か。
「なんで……俺、生きてるんだ?」
本来なら止まらない筈のスピードのトラックが、止まった事に。
ううん、彼が無事だった事に対する、安堵の涙。
彼は困惑した様子で、こちらを見ている。
「良かった……。止まって」
「あ、ああ」
彼は曖昧な返事をして、目を見開いたまま、ぼんやりと前を見詰めていた。
トラックに歩み寄ってみると、エアパックが膨らんでいるから、多分だけど運転手さんも無事だと思う。
ピクリとも動いていないから、気絶しているみたいだけど。
「運転手さん、気絶しているみたいだから、念の為に救急車を呼んでおいてあげて」
「う……うん」
彼は未だにポカンとした表情のままで、一応は伝えておいたけど、理解しているかは分からない。
多分、理解していないんだろうな。
「……みゃあ」
悲しそうな鳴き声に振り返ってみれば、クルミが雪の上に座っている。
「……良いの」
彼はクルミとわたしを交互に見て、ようやく状況を理解したらしく、安心したように微笑んだ。
その様子に、わたしも微笑むけれど。
ああ、やっぱり。
……もう、駄目だな。
「あ、え? おい!」
涙の所為も有るけど、視界がぼやけてきた。
「ゴメン」
それでも、笑う。
とびっきりの、笑顔を。
「もう、お別れみたい」
このぼやけた視界でも、自分の体が薄れていっているのは分かる。
「は?」
「……今ので、さ。念(ちから)が、無くなっちゃったみたい」
無理矢理にトラックを止めた所為で、残り少なかったこっちに残っている為の念が、完全に尽きた。
ここ1ヶ月くらいはただでさえ念の消耗が激しくて、彼とクルミのいない時は意識を眠らせて、消耗を和らげている状態だったから。
でも、後悔はしてないんだよ?
わたしはもう、長くこっちに居すぎたから。
最後に、貴方を守れたんだから。
「いや、意味分かんないし!」
「ごめんね。わたし、死んじゃってたの」
夏に、少しだけ話したよね。
昔の、事故の事。
……ああ、そうだった。
あの時だ。
今日と同じ、白い雲から雪の降った日。
わたしが、死んだ日だ。
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