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いつもはふわふわしている茶色い毛が、水分を含んで垂れているからなんだろう。
「クルミ、今日は寒いね。クルミこそ、風邪引いちゃうよ」
わたしがそう笑ってしゃがみ込むと、彼もわたし達を傘に入れようと隣にしゃがむ。
その気遣いが暖かくて、雨に濡れているのに、ポカポカとお日様に照らされるように感じた。
「にゃーお」
「……ごめんね。うちには来れないの」
近寄って来たクルミの喉を指先で撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らして、濡れた体を暖めたいのかわたしに擦り寄ってきた。
その愛らしい仕草に、ズシリと胸が、罪悪感で音をたてる。
わたしだって、出来るのならば入れてあげたい。
「……なあ、お前んち広いし、今夜だけでも入れてやれねーか? 天気予報だと、この後、本格的に嵐になるらしいんだよ。明日には止むらしいからさ!」
彼は悲しげな表情で問うけど、わたしは俯く事しか出来なかった。
わたしには、そんな事決められないから。
「お母様もお父様も、動物アレルギーなの……。お手伝いさん達も、動物を見たら屋敷から出すように言われているらしくて……。多分、無理だと思う」
「……そっか」
わたしの答えに、彼は少し考え込むような仕草をして、やがてクルミを片手で抱き上げる。
クルミは大人しく彼の腕に掴まっていて、こうして見ると彼はまるでクルミの飼い主のようだ。
一応、クルミを見つけたのはわたしの方が先なんだけどな……。
「飯はやれないけど、うち来るか?」
「うみゃあ」
彼が問うと、クルミは嬉しそうに、気持ち良さそうに、笑うように、目を細めた。
その様子に、彼はニッと笑って、次にわたしを見る。
そしてまたクルミを見る。
「よし! 飯はやれないって言ったかんな!」
彼に頭ををワシャワシャと撫でられたクルミは、ちょっと暴れたけど、相変わらず大人しい。
「じゃ、俺今日はもう帰るな」
身震いした彼の視線の先は、やはり時計店のショーウィンドウで、時計は全て4時5分を指している。
「やっべ。あ、お前も早く家入れよ!」
彼はクルミを抱え直し、傘も1度持ち直して、パシャパシャと水飛沫を上げて走り去る。
きっと、明日も来てくれる。
わたしは眼を閉じて、落ちてくる雫の冷たさに身を震わせながら、小さく呟く。
「明日は、曇り……かな」
わたしの声は、灰色の空に吸い込まれて、消えた。
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