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11月20日、雪。
今日の空は真っ白な服。
珍しく白い雲から雪が降ってきている。
いつもは雪と言えば、灰色か黒の雲からなのに。
そう言えば、前にもこんな事があったような。
いつ、だったっけ……。
「にゃぁ」
クルミの鳴き声は、いつもより暖かみが有って。
クルミを撫で続けた腕が、寒さと疲れで痺れてきた。
もう、時間は長くないかもしれない。
わたしを見上げるクルミの瞳も、どこか悲しげで、でも決意と自信が宿っている気もする。
決意は、別れの決意だろうか。
ツキンと、胸に小さな痛みが響く。
それでも、クルミを撫でる。
別れが来るまでは、この小さな温もりを離さずにいたいから。
「よう。つか、寒くねーのか?」
不意に背後から声を掛けられる事には、もうすっかり慣れてしまった。
彼は、いつも笑顔でやってくる。
悲しさなんて、痛みなんて、全て吹き飛ばすような笑顔で。
太陽のような笑顔で。
「大丈夫よ。クルミが暖かいから」
わたしがクルミを抱き上げながら笑うと、彼は茶色いコートのポケットから取り出したカイロを、もう1度しまう。
ワンピースとスニーカーにコートだけのわたしに比べ、彼はコート以外にも、ニットの帽子にセーターにマフラーに手袋にブーツ、ズボンも随分と厚手の物で、かなりの重装備だ。
更に言えば、黒いマフラー以外は全て茶色、つまりクルミ色である。
結構、寒がりなのかな。
「そういや、クルミってさ、大分前からここにいるんだってな」
右隣にしゃがみながら、不意に彼が呟く。
「ん。どうして?」
「時計屋のご主人に聞いたんだよ。昨日の夜、創業50周年だったの思い出してさ。父さんと一緒に時計買いに行って」
「そういえば、そうだったね。うん。確かに、わたしが引っ越してきた時にはもういたから、かなり長生きなのかも」
確かに昨日、創業50周年記念セールというのぼりを一緒に見たなと思い出す。
昨日は早めに眠ってしまったからな。
昨日の夜、起きていれば会えたのかな。
いや、夜に女の子が1人で外にいたら、彼のお父様を驚かせてしまうかな?
少し、会話が途切れる。
彼は何故か、少し戸惑うような仕草を見せたけど、わたしが抱くクルミの頭を、いつも通り優しく撫でる。
クルミは彼の手に頭を擦り付けるように動かしながら、綺麗な目を細めた。
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