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彼女との日常
1
彼女がいなくなってから、一週間が過ぎた。
すっかり普通の日常だ。
授業を受けていても黒猫の霊がちょっかいをかけてくることはないし、アルバイトをしていても、黒猫の霊がレンジの上で眠っていることはない。スーパーに行っても、ミカンをねだられることはない。
十一月ももう、終わりに近づいていた。そういえば、マフラーをしまいこんだ場所がわからない。これは、押入れの奥にしまいっぱなしのダンボール箱をひっくり返さなければならなくなりそうだ。
図書館の貸し出しカードを探した、あのときのように。
「おーい、澤田?」
はっとして、澤田が顔を上げた。
すると目の前には佐藤が立っていて、机に頬杖をついて座ったままの澤田をのぞきこんでくる。
「次、移動だけど」
「え、あ」
いつの間にか日本史の授業は終わっていて、みんな席を立っている。
そうだ。次の授業は、音楽だ。
「どうしたんだよ、最近。なんか眠そうっていうか、ぼーっとしてるっていうか」
「あー、うん。まあ……」
寝不足であることは、たしかだ。最近澤田はあまり眠れていないし、正直、あまり食べていない。
それが、一人暮らしのよくないところだ。適当に過ごしていても、誰にも文句を言われないままに過ぎていってしまう。
「あんまり無理しないほうがいいよ。昼飯食べたら少し寝たら? 俺、起こしてやるよ」
最近、昼休憩は佐藤とともに屋上で過ごすことが定番となっている。しかし。
「大丈夫かよ。一緒に寝ちゃって次の授業に遅刻するってオチになる気がするけど」
「あ、信用してないな。これでも俺、やるときはやる男なんだから」
「ほんとか?」
「ほんとほんと。ま、万が一遅刻しても責任とらないけど」
これが、普通の学生生活だ。
だけどふと気づくと、肩の上を見てしまう。
足元を、見下ろしてしまう。
☆
今日の授業後は、午後五時から夜九時までコンビニでアルバイトだ。
いつもなら一度アパートへ戻るところだが、その気力もなく、学校帰りのままコンビニへ行き休憩室で時間待ちをさせてもらった。
勤務時間がいつもより長く感じられるのは、彼女がいないせいかもしれない。
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