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ガタンゴトン ガタンゴトン
その日の午後の事は覚えていない。
けれども、涙と嗚咽の混じったカレーの味だけは、今も時々思い出す。
泣いている時は食道が細くなって、ジャガイモの小さな欠片でも、大きな石ころを飲み込むほどの努力がいる。
ガタンゴトン ガタンゴトン
「おい七海! ヘルプカードの説明が、まだだぞ!」
な、何だよタカシ、急に大声なんか出したりして。
《あっ、いっけない!》
どうしたのさ七海さん、ずいぶんと慌ててるじゃないのさ。
《すいません! 大事なルールの説明を忘れていました。すべての女性が料理が得意というわけではありません。30分の間に1回だけ、彼女さんは彼氏さんに料理のアドバイスを受ける事が出来ます》
何だよ七海さん! それ、むちゃくちゃ大切なルールでしょ!
僕は思わず、椅子から身を乗り出した。
「あれ、佐々木くん、泣いてるのかい?」
タカシが僕の顔を覗き込んだけど、気にしない。
ガタンゴトン ガタンゴトン
久美ちゃんと陸のキス‥‥辛い思い出だけど、あの日の午後には、僕が思い出せないもっと別な事件があった気がする。
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