春のご馳走ドッキドキ

11/25
前へ
/25ページ
次へ
ガタンゴトン ガタンゴトン その日の午後の事は覚えていない。 けれども、涙と嗚咽の混じったカレーの味だけは、今も時々思い出す。 泣いている時は食道が細くなって、ジャガイモの小さな欠片でも、大きな石ころを飲み込むほどの努力がいる。 ガタンゴトン ガタンゴトン 「おい七海! ヘルプカードの説明が、まだだぞ!」 な、何だよタカシ、急に大声なんか出したりして。 《あっ、いっけない!》 どうしたのさ七海さん、ずいぶんと慌ててるじゃないのさ。 《すいません! 大事なルールの説明を忘れていました。すべての女性が料理が得意というわけではありません。30分の間に1回だけ、彼女さんは彼氏さんに料理のアドバイスを受ける事が出来ます》 何だよ七海さん! それ、むちゃくちゃ大切なルールでしょ! 僕は思わず、椅子から身を乗り出した。 「あれ、佐々木くん、泣いてるのかい?」 タカシが僕の顔を覗き込んだけど、気にしない。 ガタンゴトン ガタンゴトン 久美ちゃんと陸のキス‥‥辛い思い出だけど、あの日の午後には、僕が思い出せないもっと別な事件があった気がする。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加