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「ぷっ‥‥佐々木君、君の彼女って、料理の経験ってあるのかい?」
タカシは片手で口を覆い、顔を真っ赤にして笑いをこらえている。
「し、失礼じゃないですかタカシさん。ああ見えても久美ちゃんのカレーは美味しいんです。黙って見てて下さい!」
「そ、そうかい? これは失礼した。ぷっ‥」
全く!
けれども久美ちゃん、なんか、ご飯の炊き方はそうじゃないと僕は思う。
久美ちゃんはお米が山盛りになった鍋に火を入れた。
米は洗わないの? 水は入れないの?
けれども久美ちゃんの興味はもう、カレーのルウへ入れる食材選びに移ってしまった。
タマネギをボールに入れる。
お肉を、まな板の上に乗せる。
マグロの切り身を、手に取る。
キュウリも手に取る。
「ぷっ」
タカシがまた笑った。
僕は全く笑えない状況にある。
そしてまた、鉄道橋の上を、赤い電車が通過して行く。
ガタンゴトンの音が、高校1年の夏の記憶を連れて来た。
僕と久美ちゃんと陸は、日帰りキャンプのテントを、この鉄道橋の下に張ったんだ。
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