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ガタンゴトン ガタンゴトン
あれは真夏の太陽が、これでもかと言わんばかりに照りつける日だった。
「違う違う。久美、包丁の持ち方はこうさ」
陸が久美ちゃんから、包丁を取り上げて、まな板の上のジャガイモを切り出す。
「すっご~い。陸クン上手~」
陸はスポーツ万能で背も高く、女の子に優しい。
僕は何度か、陸と付き合いたいという女子からの告白を、奴に伝えた事がある。
「包丁の使い方は、郁也の方が上手いよ。久美だって知ってるだろう? 郁也は無趣味のようだけど、こいつの部屋の本棚には、料理本が6冊もあるんだぜ」
陸と付き合いたい女子の気持ちを、僕は1字1句間違える事なく伝えるのが常だった。
それに対して、陸は必ず決まった言葉で答えた。
「郁也、僕には他に好きな女の子がいるから、ムリだって、その娘に伝えてくれないか」
「またかよ! ところで陸、そろそろ教えろよ。お前の好きな女の子って誰さ」
「郁也、初めにお前の好きな女の子を言いな。そしたら教えるよ」
「い、いないよ! 好きな女の子なんていないさ!」
「じゃあ教えらんないなぁ」
陸は何時も爽やかに笑った。
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