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久美ちゃんもそれを思い出しているに違いない。
さっきから黙ってナイフとフォークを動かしている。
僕のテーブルに、ウェイターさんが桃のシャーベットを運んでくれた。
その後すぐに、レターセットと3本の鉛筆も置かれた。
無理だよ‥‥
ラブレターで、コテンパンにフラれた久美ちゃんへまた手紙を書くなんて‥‥
「ねぇ郁也クン」
「う、うん‥‥」
「船の旅って素敵よねぇ」
どうした久美ちゃん‥‥
久美ちゃんは頬を押さえて、大きな窓の外を見ていた。
ドキリとするほどの、綺麗な横顔である。
ああ、僕はずいぶん長い間、この人からトキメキをもらって来た。
「久美ちゃん‥」
「どおしたぁ?」
「世界一周旅行‥‥行きたい?」
「何を今更‥‥」
「僕また、久美ちゃんへラブレターを書くよ。一生懸命に書く」
「本当?」
「本当さ」
久美ちゃんの前へ、魚のメイン料理が置かれた。
久美ちゃんが銀色のナイフを掴む。
「頑張って郁也クン! あなた作文は得意中の得意だったわよね」
銀色のナイフもそうだが、久美ちゃんの瞳も、キラリと光った気がする。
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