恋のクルーズ、ドッキドキ!

7/25
前へ
/25ページ
次へ
クマさん丸は3000トンクラスのレストラン船である。 夜景に映えるよう、青色でライトアップされたその船は、桟橋の向こうで、静かに僕達を待っている。 波の音はぴちゃんぴちゃん。 時々強く吹く北風が、細かいしぶきを運んでくる。 「私、船で食事なんて始めて!」 久美ちゃんが腕を絡ませてくるから、僕の頬っぺたは、おそらく夕陽と同じ色になっている。 けれども、寂しさがこみ上げてくるのは何故なんだろう。 潮風のせい? 夕陽のせい? 「あ~あ~、この湾内クルーズでツアーもおわりかぁ~」 ああそうか、ツアーの終わりは久美ちゃんとのデートの終わりを意味するんだ。 そう言う事さ。 そう言う事だ。 「ねぇ郁也クン」 「うん?」 「頑張ろうね」 「うん!」 少しだけ久美ちゃんの瞳が潤んでいる気がした。 僕は堪らなくなって走り出した。 桟橋、乗船口のスロープ。 「あぶないわよー」 後ろから久美ちゃんの声が追いかけてくる。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加