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クマさん丸は3000トンクラスのレストラン船である。
夜景に映えるよう、青色でライトアップされたその船は、桟橋の向こうで、静かに僕達を待っている。
波の音はぴちゃんぴちゃん。
時々強く吹く北風が、細かいしぶきを運んでくる。
「私、船で食事なんて始めて!」
久美ちゃんが腕を絡ませてくるから、僕の頬っぺたは、おそらく夕陽と同じ色になっている。
けれども、寂しさがこみ上げてくるのは何故なんだろう。
潮風のせい?
夕陽のせい?
「あ~あ~、この湾内クルーズでツアーもおわりかぁ~」
ああそうか、ツアーの終わりは久美ちゃんとのデートの終わりを意味するんだ。
そう言う事さ。
そう言う事だ。
「ねぇ郁也クン」
「うん?」
「頑張ろうね」
「うん!」
少しだけ久美ちゃんの瞳が潤んでいる気がした。
僕は堪らなくなって走り出した。
桟橋、乗船口のスロープ。
「あぶないわよー」
後ろから久美ちゃんの声が追いかけてくる。
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