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数年後。
一度だけ偶然に美由に会ったことがあった。
懐かしい美由の顔。
相変わらず小さくて生意気そうな表情はそのままだった。
けれど、彼女は言った。
「茜とは別れたの」
僕は聞いた。
「…負けたの?」
すると美由はやけに涼しい顔で、はっきりと言った。
「負けてないよ。
走りきったよ、あたしも、茜もね。
だからこれからは誰を好きになっても、もう悩まない。
弱音も吐かない。
男の人かもしれないし
女の子かもしれないし
犯罪者かもしれないけど、…もう絶対泣かない。
一生、この体で生きてくんだ!」
美由はきらきらしていた。
僕の見ていたどんな時の笑い顔より、きれいだった。
きらきらと、水のように軽やかに光る。
きらきらと。
美由と別れた僕は、
近くにあった葉っぱをいく枚かちぎり、手の中に並べて匂いを嗅いだ。
青臭い、懐かしい匂いには何より自分らしい自分がいた。
戻れない?
戻る必要なんてない。
その頃のランドセルを背負った小さな僕が、僕に話しかけてくる。
"しっかりやってる?"
僕はこう答える。
"もちろんだよ"
さて、明日はどこへ行こう。
何を見て、何を感じ、何を勉強しよう。
自分の言葉を得る為に。
彼女のように笑う為に。
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