糸 #2

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数年後。 一度だけ偶然に美由に会ったことがあった。 懐かしい美由の顔。 相変わらず小さくて生意気そうな表情はそのままだった。 けれど、彼女は言った。 「茜とは別れたの」 僕は聞いた。 「…負けたの?」 すると美由はやけに涼しい顔で、はっきりと言った。 「負けてないよ。 走りきったよ、あたしも、茜もね。 だからこれからは誰を好きになっても、もう悩まない。 弱音も吐かない。 男の人かもしれないし 女の子かもしれないし 犯罪者かもしれないけど、…もう絶対泣かない。 一生、この体で生きてくんだ!」 美由はきらきらしていた。 僕の見ていたどんな時の笑い顔より、きれいだった。 きらきらと、水のように軽やかに光る。 きらきらと。 美由と別れた僕は、 近くにあった葉っぱをいく枚かちぎり、手の中に並べて匂いを嗅いだ。 青臭い、懐かしい匂いには何より自分らしい自分がいた。 戻れない? 戻る必要なんてない。 その頃のランドセルを背負った小さな僕が、僕に話しかけてくる。 "しっかりやってる?" 僕はこう答える。 "もちろんだよ" さて、明日はどこへ行こう。 何を見て、何を感じ、何を勉強しよう。 自分の言葉を得る為に。 彼女のように笑う為に。
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