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「かえ、先生。」
私のすぐ側までくると、吐息のように、名前を呼ばれた。私にしか聞こえないように。
なんで・・・。
懐かしい。
楓(かえで)という私の名前を、かえ、と呼んだのは、あの人だけなのに。
「おや、冴木先生は初対面でしたね。北村先生ですよ、新採用の。」
教頭先生の言葉で、我に帰る。
「去年は、西小学校の臨時講師で、陸上部も指導していました。1000メートル選手の蒼李君のお母様ですよね。」
「えっ。」
突然出てきた息子の名前により、先程の違和感の正体だと思い込んだ。
そっか、蒼李の先生だったんだ。新採用の先生なのに、今日初めて話す人なのに、知り合いの訳ないじゃない。懐かしい訳ないじゃない。
「では、朝会を始めます。明日からの新学級スタートにおいて・・・。」
私は、全ての邪念を振り払って、しゃべり出した。
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