第1章

6/12
前へ
/17ページ
次へ
「では、以上で朝会を終わりにします。」 北村先生は、新任の割にはキビキビとした動作で、司会を進めている。あ、でも、講師の経験だってあるし、新社会人じゃないしな。だけど、若いのに、やるな。最近の新人は・・・なんて、おばさんじみた事を考えているうちに、朝会が終わった。 そうだ、教室に荷物を運んでおこうと思い、段ボールをよいしょと持ち上げて、職員室のドアを足で必死にスライドしようとした。 「荷物、持ちますよ。」 「えっ。」 上の方からにゅっと手が伸びてきて、ドアをスライドしてくれる。 「北村先生。」 「副担、なんで。さっき、朝会で発表してましたよ。教室案内してもらいたいから。」 「あの、お願いします。」 やだ、そんな大事な事、聞いてなかったなんて。熱くなった顔に、何でもない風な無表情を貼りつけて、歩き出す。 「箱、めちゃめちゃ重いじゃないですか。だから、顔、赤いんだ。」 こいつ、嫌いだ。さっき誉めたの取り消し。 ぷんぷんしながら、ぐいぐい進み、教室のドアをスライドさせると、ひとけのない、ひんやりした空気に、少しほっとする。 「そこ、おいて下さい。ありがとうございました。」 早口でお礼をして、顔を上げた瞬間・・・。 「お礼。」 またあの色素の薄い瞳で、私の瞳を捕らえて、ちゅるっと私の下唇を啄んで、教室から出て行った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加