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「では、以上で朝会を終わりにします。」
北村先生は、新任の割にはキビキビとした動作で、司会を進めている。あ、でも、講師の経験だってあるし、新社会人じゃないしな。だけど、若いのに、やるな。最近の新人は・・・なんて、おばさんじみた事を考えているうちに、朝会が終わった。
そうだ、教室に荷物を運んでおこうと思い、段ボールをよいしょと持ち上げて、職員室のドアを足で必死にスライドしようとした。
「荷物、持ちますよ。」
「えっ。」
上の方からにゅっと手が伸びてきて、ドアをスライドしてくれる。
「北村先生。」
「副担、なんで。さっき、朝会で発表してましたよ。教室案内してもらいたいから。」
「あの、お願いします。」
やだ、そんな大事な事、聞いてなかったなんて。熱くなった顔に、何でもない風な無表情を貼りつけて、歩き出す。
「箱、めちゃめちゃ重いじゃないですか。だから、顔、赤いんだ。」
こいつ、嫌いだ。さっき誉めたの取り消し。
ぷんぷんしながら、ぐいぐい進み、教室のドアをスライドさせると、ひとけのない、ひんやりした空気に、少しほっとする。
「そこ、おいて下さい。ありがとうございました。」
早口でお礼をして、顔を上げた瞬間・・・。
「お礼。」
またあの色素の薄い瞳で、私の瞳を捕らえて、ちゅるっと私の下唇を啄んで、教室から出て行った。
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