番外編:尚彦

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「絶対やってないだろ」と突っ込みを入れると、琢己からため息が届いた。 「うっ……だって。わかんないんだもの。尚彦の教え方じゃあないともう、さぁ」 「あーもう。ほら、今やってるところは? どこだ?」 「え、嘘。電話で勉強会とかやっちゃうの?」 「お前の将来の為だからな。俺は手を抜かないぞ。で、特に何がわからないんだ?」  自分の通う高校の教科書と琢己のそれが、同じような内容であれば良いけれど。尚彦は窓の外より視線を鞄へ向け、そこから教科書を取り出す。  琢己の嘆くような声が電話口から漂ってきた。 「うぅっ。数学」 「どこら辺?」  数学の教科書をぺらりぺらりとめくる。 「乗法公式んとこ。わかんなくて困ってる」 「おまっ、一番基礎じゃないか。そんなところで躓いていて大丈夫かよ」  顔を顰めながら心配をする尚彦に、琢己の駄々をこねる様子が送られた。 「……だって。先生の教え方がさぁ。よくわかんないんだもん」 「あーもう。俺が毎日指導してやるから」 「ええ!? そんなぁ……お喋りしない?」  がっかりした様子の琢己を少々可哀想だと思うが、しかし、と尚彦は意思を貫いた。 「駄目だ」
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