第3章 札幌ゲノメディカ

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 また直ぐに辞められては、紹介した真之の信用も下がるし、紹介された方もたまったものではない。  真之は、速見の優秀さを知っているだけに、早い段階で彼の夜遊びをやめさせていれば、彼の人生が狂う事がなかったのに…と今でも後悔している。  速見の二の舞にならないように、市河には、ススキノの夜遊びを止めて、研究に集中するように厳しくお灸をすえた後、背高泡立草(セイタカ アワダチソウ)という植物の天然毒を遺伝子に組み込んだマウスの遺伝子研究について話をした。  近年、この背高泡立草という米国原産の外来植物が、北の大地にも進出してきている。  研究所の窓から見える大学の農場にも生えていて、夏の終わりから秋に掛けて黄色い花を付ける。  本州では既に戦後から、猛威をふるっている植物で、特に関西や北九州に多い。  元々、鑑賞用として庭に植えられていたのが、野に逃げ出した植物だけに、鮮やかな黄色い花は美しい。  夏の終わり頃にはススキと争って生い茂り、空き地や原野で、黄色い花房が秋風に揺られている。  河川改修や埋め立てなどで、ならした広大な土地を黄色の絨毯(じゅうたん)に変えるその生命力は他の植物を圧倒している。  戦後の日本社会が、米国化して行ったのと時を同じくして、米国原産の植物が、日本古来の植物を駆逐して広がって行ったのは何とも皮肉な結果である。   背高泡立草は、自らの根から天然毒を出して、競争相手の植物の成長を阻害(そがい)する。  専門用語では、アレロパシー(他感作用)と呼ばれている作用だ。
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