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この天然毒は、シス・デヒドロ・マトリカリア・エステルという長ったらしい名前の物質である事が知られている。
この天然毒を遺伝子に組み込んだマウスを使って、様々な病気への耐性を調べるというのが市河の研究テーマだった。
真之は、札幌に戻ってくる数年前まで、米国のワシントン州シアトルにある、ノーベル生理学・医学賞を何人も輩出している有名な大学で医薬の研究をしていた。
キャンパスの敷地は広大で、地図なしでは迷ってしまうほどの広さだった。
広いキャンパスと言えば北海道大学も広いが、その1.5倍ぐらいの面積があった。
初めてそのキャンパスに足を踏み入れた時は、さすがは広大な国土を有する米国の大学だと感心した。
その大学の研究室で、毎日、時間が過ぎるのも忘れて、研究と勉学に打ち込んだ。
渡米前に、プロポーズを断られた傷心を忘れようと、日本にいた時よりも研究に没頭した。
やがて、権威ある論文誌にも数多くの論文を発表して、一人前の研究者として認められた。
真之の得意とする分野は、天然毒と遺伝子の研究だった。
一見、畑違いのように思える二つの分野を切り口として独創的な研究を行い新薬の開発をした事が大きく評価された。
米国の大学でも引く手あまただったが、母校の大学に新設された先端医薬研究所の統括研究員として誘われ、札幌に戻ってくる事に決めた。
役職的には所長に次ぐ、No2だ。
所長の仕事は対外折衝の仕事が多いので、実質的に研究を指揮するポストだった。
30代後半という年齢からすれば、異例の大抜擢だった。
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