第3章 札幌ゲノメディカ

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 真之には大きな野望があった。  札幌を、世界の創薬産業のメッカにする事だった。札幌ゲノメディカの創設は、その第一歩だ。  先端医薬研究所で新薬の種を見つけて、「札幌ゲノメディカ」と共同研究を行い、創薬開発を垂直立ち上げするのが真之の狙いだった。  さらに、特許や許認可に関する特許部も強化して、米国に負けない万全の体制を整えた。  早くもその成果が出始めて、将来的に巨万の富を生む新薬を開発して、特許を出願した。  しかし、他社から特許の棄却請求(ききゃくせいきゅう)が出て、現在、裁判で係争中だった。  係争中の相手は、日本の中堅製薬会社の三ツ橋製薬だった。  こちらが出願する数日前に全く同じような特許を、三ツ橋製薬が出願していた。  三ツ橋製薬の出願内容に目を通して、真之は、やられたと思った。  サンプルやデータの結果が、こちらと瓜二つだった。  新薬の構造解析まで全く同じだった。盗用されたと直感した。  しかし、それを証明する手立ては何もなかった。  大学とベンチャー企業で織り成した最初の研究が、華々しい成果を上げることが出来たと喜んでいたのも束の間、まさかの大転落だった。  創薬ベンチャーの場合、特許を押さえることが出来なければ、一文の価値もない。  特許を抑えて独占販売するか、特許のライセンス料を取るしか、利益を挙げる方法はない。  そこが、多種多様な医薬を大量生産する工場を持つ製薬会社とは違う。  特許が取れなければ、それまでに積み重ねて来た研究は、単なる無駄金の消費でしかない。
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