第4章 同窓会

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 真之は「つぼ八」の暖簾(のれん)の前に立った。  社会人になったのだから、もっと高級な店でも良いんじゃないかと思ったが、いざ店内に入ってみると、学生に戻ったような懐かしい気分がした。  若しかしたら、和子が来ているかも知れないと淡い期待を抱きつつ、テーブルに座る面々を眺めた。  留学中は、彼女への思い出を掻き消すようにして、研究に没頭していた。  だが和子を心の奥底へ押し込めようとすればするほど、思い出した。  10年の月日が流れていたが、真之の心に住んでいる和子はあの時のままだった。  和子を忘れられない自分が、未練がましいとも思うが、自分ではどうしようもなかった。  風の噂では、真之の渡米後、他の男と結婚して、子供も二人いるという。  今や自分は、創薬ベンチャー企業の社長という立場だ。社会的に見れば、羨望の的に値する成功者だ。 「あの時の渡米は間違いではなかった」  そう自信を持って言える。  その事を和子に誇りたかったし、それを彼女に認めて欲しかった。  本心を言えば、プロポーズを断り、一緒に来なかった事を、和子が後悔していて欲しかった。 「過去には戻れない。。。しかし、若し戻れるなら、あの時、あなたと一緒になれば良かった」と、和子の口から聞くことが出来たらな、どんなに救われるだろう。。。  同窓会には、懐かしい面々が集い、宴会が始まった。  しかし、和子はいなかった。 「今さら会ってどうするものでもないし…」  馬鹿だな自分はと、自嘲しながら、友人たちと昔話に花を咲かせた。
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