第1章 プロローグ

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 和子は、葛藤した。  海外に行けば、研究熱心な真之が、大学に籠もりっきりになって仕事に没頭するのは予想が付いた。  もし二人で渡米すれば、言葉の通じない社会の中で、自分だけが部屋の中で一人っきりになってしまう。  真之を愛してはいたが、その寂しさに自分は耐えられないと思った。思い悩んだ末に、プロポーズを断り二人の関係はそれで終わった。  何人もの友達に、和子は冷たいと言われた。  一般的に、北海道の女は、別れに対してドライだといわれるが、それは仕方がないことだ。  それが現実なのだ。  後腐れなんか気にしていたら恋愛なんて出来やしない。  どうせ別れるなら、北海道の澄んだ空のように、早めに綺麗さっぱり別れた方がいい。  北海道の女は冷たいと言う奴には、勝手に言わせておけばいい。  分かりきった不幸を背負って生きて行くなんて、 「はんかくさいっしょや」 と言い返してあげる。  真之との別離からは、既に10年近くの歳月が経っていた。  数年ほど前に、真之が、日本に戻っていた事は、新聞を読んで、知っていた。  札幌の国立大学に新設された先端医薬研究所の主任研究員として、米国から招聘されたそうだ。その特集記事が地元の北海道新聞に掲載されていた。  今回の同期会は、真之の友人が幹事となって開催するので、日本に帰ってきた真之の歓迎会的な意味合いもあるのだろう。  そんな同期会に、和子が行けるはずもない。  真之と付き合っていた過去は、サークルの同期だった有紀なら、十二分に承知しているはずだ。  そう言えば、学生の頃から、彼女は時々、変な言い掛かりを付けたり、遠くから挑みかかるような視線で見つめていた気がする。
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