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第3章 札幌ゲノメディカ
西嶋真之は、大学の研究所で、市河慶二(いちかわ けいじ)という学生と面談をしていた。
市河は修士(マスター)一年目で、彼の修士論文のテーマや研究者としての心構えについて話をしていた。
普通、修士の研究テーマは、担当教官レベルで話が付くのだが、真之は、敢えて一人一人の学生と面談する機会を設けていた。
研究者としてのスタートは修士課程だ。
最初に、確固たる自覚と覚悟を持たせる事が大切だという信念を真之は持っていた。
しっかりとしたスタートを切ることによって、その学生の研究者として素質を伸ばして、数年後には研究室を引っ張っていく人材になって欲しいと願っていた。
さらに、市河に関しては心配な事があった。
彼を指導している博士課程(ドクター)の学生から、市河が最近ススキノの夜遊びに夢中になって、研究に身が入っていないという相談を受けていた。
以前、真之は、学生のプライバシーまでは踏み込まず、自己管理に任せていた。
しかし、数年前に、苦い経験をした。
当時、速見卓巳(はやみ たくみ)という優秀な学生いた。
しかし、ある時期からススキノの夜遊びにはまってしまった。
直ぐに飽きるだろうと高をくくっていたが、徐々にのめり込み、単なる夜遊びから危ない仕事に手を出した。
そして、大金を手にした彼は博士課程の途中で退学した。
数週間前に、その速見から就職先を紹介してくれと電話があった。
しかし、真之は断った。
その前にも2回ほど、医薬業界のコネを使って、就職を斡旋(あっせん)したのだが、1ヶ月も持たないで辞めてしまった。
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