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昔ながらのやり方に慣れた柳沢が、石墨の豪腕な仕事ぶりに付いていけないのだ。柳沢は思ったことを直ぐ口にする性質なので、最後は感情的な言い争いになってしまう。
愛子は、拙速な強行策はしないで、再度、入念な市場調査をしてから、計画を進めるように指示した。
最後の案件は稲葉が推進しているブライダルの新企画だった。
稲葉は朗々と企画の説明を始めた。
「軽井沢は、ブライダル業の盛んな所です。明治時代に訪れた宣教師のショーが、避暑地として軽井沢に住み始めた事から、多くの外国人が避暑地として別荘を建て始めました。そのため、多くの教会が建てられ、高原の教会というイメージが定着しました。そのブランド力は、今も厳然として力を失っていません。しかしながら、軽井沢でのブライダルは、もう頭打ちです。現在、軽井沢には、ブライダルホテルが林立しています。パイは限られているが、それを奪い合う商売敵は今も増え続けています。つい最近も、雲場池の畔に、新しいブライダルのゲストハウスが出来ました」
「先程、土屋経理部長から報告があったとおり、利益は、ブライダル部門に負う所が大きいわ。何としても今の利益率を確保するように、全力で取り組んでもらわないといけないわね」
愛子は、稲葉に話した。
「私が、ブライダル事業の総責任者として赴任して以来、様々なイベントを提供しつつ経営効率の改善に努めてきました。赤字だったブライダル事業は、今では社内一のドル箱にまで成長しました。しかし、経営効率化も詰める所まで詰めました。正直に申し上げて、これ以上の急激な成長は見込めないでしょう」
「稲葉さん、あんたは、将来の収益が落ち込むことに対して、単に言い訳を用意してきただけですか」
石墨は、皮肉を言った。
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