第2章 軽井沢の夜明け

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 かつて、愛子は、高校卒業後、上京して花屋で働きながらフラワーデザイナーの勉強をしていた。  そして、フラワー装飾技能士の資格を取得し、ブライダルを主に扱うフラワーデザイン会社へ転職した。  その会社で、ブライダルのフラワーアレンジメントの仕事をしている際に、商談に訪れた寛司と出会った。  第一印象は、「パッとしないおじさんだな」と思った。  年齢も35歳と、愛子よりも一回り年上なので、最初は、恋愛の対象としては眼中になかった。 寛司との会話で、軽井沢でホテル経営をしているという話を聞いて、愛子は懐かしさを覚えた。  愛子は、少女の頃、避暑で軽井沢の別荘によく遊びに行っていた。  しかし、父親の事業の失敗、両親の離婚という立て続けに起こった不幸な出来事によって、軽井沢は縁遠い地になっていた。  愛子は、寛司の熱烈な誘いに負けてデートをした。最初は、美味しいディナーでも奢ってもらおうという甘い考えだった。軽井沢でも何度もデートをした。  軽井沢は、かつて、愛子の人生の中で、一番幸せだった時代を過ごした場所だった。  優しい家族、優雅な生活、そして、初恋。  少女時代の幸福が、軽井沢に凝縮していた。  今、思い返せば、軽井沢で寛司と共に生活すれば、あの頃のような幸福な時代を取り戻せると錯覚したのかも知れない…  結婚後、愛子は副社長の役職を貰った。子供が出来たら辞めるという約束で引き受けたが、1年、2年と経っても子供には恵まれなかった。そして、ずるずると仕事を続けているうちに、5年の年月が経ち、28歳の夏を迎えようとしていた。
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