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第3章 社内抗争
週一回の幹部会議には、副社長の愛子(あいこ)、専務の石墨(いしずみ)、経営戦略局室長の稲葉(いなば)、営業部長の柳沢(やなぎさわ)、経理部長の土屋(つちや)の五人が顔を揃えた。
営業部長の柳沢は先代の従弟に当り、先代を支えて来た最古参だ。
経理部長の土屋は、社長の妹の旦那、つまり社長の義理の弟に当たる。
先代の健一郎(けんいちろう)の頃は、家族経営の色合いが濃く、幹部は親族で固めていた。
しかし、寛司が社長に就任すると、状況は一変した。寛司は、経営に次々と新しい血を入れた。
熱海の旅館経営で実績を上げていた石墨をヘッドハンティングして専務という破格のポストで迎え入れた。
さらに、札幌のブライダル業界の風雲児と呼ばれていた稲葉を、経営戦略局室長、及びブライダル部門の総責任者という高待遇で引き抜いた。
新しい血は二人だけでなかった。彼らは、前の会社から有能な部下を引き連れてきた。それにより、社内の勢力地図は大きく塗り替えられることになった。
実力のあるものが伸し上がる活力ある組織となった。一方で、親族社員が肩身の狭い思いを強いられる状況になっていた。
幹部会議は、先月の収支報告から始まった。
発表者は、経理部長の土屋だった。
宿泊客の入りは好調で、日帰り入浴施設も大入りが続いていた。
それ以上に黒字を叩き出していたのがブライダル事業だった。
稲葉がブライダル部門を統括してから、矢継ぎ早に魅力溢れるアイデアを盛り込み、それが口コミやマスコミを通じて知れ渡り、ヴィラ・ヘメロカリスは、今や軽井沢を代表するブライダルホテルとなっていた。
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