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遠来の招待客は、結婚式後、観光を兼ねて泊まることが多かったので、宿泊客の安定確保にも貢献していた。
収支報告の後、専務の石墨から、大規模開発プロジェクトの報告があった。
石墨は、四季を通して楽しめるスポーツクラブと温泉が一体になった複合施設の建設に向けて邁進していた。彼の構想では、別荘族や移住者の高齢化を睨んで、施設内には医師や看護師も常駐させて、主に中高年の健康増進をターゲットにするという話であった。
石墨と柳沢は、許認可取り付けのために、役所や地元政治家への根回しや、用地買収に向けた折衝などに飛び回っていた。
大規模開発には、社内の一部からも反対の声が挙がっていた。
反対派は、稲葉、土屋、柳沢の三人だった。
三人に加えて、既に隠居の身ではあるが会長の健一郎が、猛烈に反対していた。
しかし、寛司は、父親の意見に耳を傾けようとはしなかった。
愛子は何度も健一郎から寛司を説得するように頼まれたが、寛司の意思を変えることは出来なかった。
愛子は、全面的に反対ではないが、慎重論を唱えていた。
莫大な投資をして、それに見合った収益を上げられるかが心配だった。もっと徹底した市場調査が必要だと考えていた。
事態をさらに悪化させていたのは、自然保護団体が、地域住民と一緒になって開発反対の運動をしていることだった。
建設予定地には絶滅危惧種(レッドデータブック)の植物や野鳥が多く生息していた。
その中に、浅間黄菅(あさまきすげ)という希少な山野草があった。夕菅(ゆうすげ)という花の仲間で、軽井沢一帯の特産種だった。
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