第3章 社内抗争

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 柳沢の眉間がぷるぷると震えた。 「大人しく聞いてれば、勝手なことばっかり抜かしやがって。軽井沢の人間を愚弄するのもいい加減にしろ。地元のもんを苛めるような事業ばっかりやりやがって」と激しく机を叩いた。 「そんな人聞きの悪いことは言わないで下さい。第一、今回の開発は、多くの地元民に、雇用をもたらすんです。潤うのは地元民なんですよ。原野に雑草が生えるがままにしておいて、何処に産業が育つというんですか」 「喧しいわい。元々、俺はこの計画に反対なんだ。社長の命令だから、涙を呑んで仕事をしてるんだ。だけんどな、俺はお前のやり方が気に食わねぇだ。あんな強引な方法で土地を巻き上げるのは、ヤクザのやり方だ」 「ヤクザだなんて物騒なことを言わないで下さいよ。土地買収にゴタゴタは付き物なんですよ。一々、それに感傷的になっていては、仕事は進みませんよ」と鼻で笑った。 「外の人間に、自分の故郷がどんどん壊れていく哀しさが分かってたまるか」  柳沢は、石墨を睨んだ。 「はぁ、また、そういう感傷論ですか。開発なくて、新たな発展はありません。第一、軽井沢だって元を糾せば、単なる森だったんです。そこを別荘地にしたり、ゴルフ場やスキー場にしたり、アウトレットを造ったりして、地元経済が潤ってきたんじゃないですか。違いますか?このホテルだってしかりですよ。一代目の社長が切り拓く前は単なる原野だったそうじゃないですか。一代目が開発したから、今のヴィラ・ヘメロカリスがあることを忘れちゃいけませんよ」  石墨は、勝ち誇った顔で皆を見回した。  会議室の中に不穏な空気が流れた。  最近は、柳沢と石墨が衝突することが多い。  大規模開発の件で一緒に外を回ることが多くなってから、特に顕著になった。
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