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「お返しなんぞしたことがない」
健介が間に割り込んできた。
「これだからモテる男はさぁ。それはマナーってもんだろ、な? 彰良」
お前、俺の記憶が正しければ、生きてきて家族以外よりまだ一つもチョコを貰ったことがないのに、マナーを語れる立場かよ。
まぁそれは俺も同じなのだけれど。
「マナーがどうだかは知らんが、誠意には誠意を返してやれよ」
軽く、孝大の胸を小突く。
しばし考えるように自分の下駄箱を眺めていたかと思えば、こちらを向いて深く頷いてきた。
まぁ、俺だったら面倒くさいからやらないかもしれんがな、と心の中で付け加える。
そういえば、といった風に眉を上げながら健介が、持っていた鞄の中身を漁り出した。
そして小箱を取り出し、鞄を床に置いて昇降口を出てゆく。
何をしたいんだあの阿呆は。
ひょこり、とそこから顔を覗かせ、周囲を見渡し、こちらへ視線を定めてきた。
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