日曜日のクラブ

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「で、最後が……」 慎さんがちらと店の奥を振り返る。すると衝立の裏から、神田が手だけを覗かせてヒラヒラとこちらに振っているのが見えた。 「いや、加賀谷っ……無理だわこれ」 「神田?」 「だってまさかこうなるとは! 絶対に無理っ!」 なかなか姿を見せない神田に、屋代と九条も眉根を下げて目を見合わせている。 一体どうしちゃったんだろう? さっきから異様に静かだとは思っていたけれど、よっぽど変な格好にされたのかな? 「ねぇ、だいじょう……ぶっ!?」 俺は衝立の向こう側を覗き込み、そして固まった。 「やっ……加賀谷っ見るな!」 ふわふわとカールしたブラウンのロングヘアー、しかもツインテール。ぱっちりとした瞳に長いつけ睫毛、ツヤツヤに塗られた薔薇色の唇。 恐る恐る見下ろすと、まさかのセーラ服にハイソックス……。 「…………」 「もっ……本当に駄目だから!」 涙目の神田は、俺の視線に耐えかねて必死に短いスカートを抑えている。 その恥じらう姿が「ずきゅんっ!」と胸に刺さって、俺は思わず神田に抱き着いてしまった。 「ああっ、神田めちゃくちゃかわいい〜! すごい女の子じゃん!」 「いやいやいや! おかしいよね! これって絶対に加賀谷用の服だったよね!?」 前から神田はかわいい系だと思っていたけど、まさかこんなにも女装が似合うなんて……! かわいいっ……かわいい! なんでだろうか、女の子の格好をしているだけで、いつもより良い匂いがするような気がする。 慎さんと雄二郎さん……グッジョブです! 「お前ら、何を騒いでんだ……うぇっ!?」 すると衝立を退かした屋代と九条も、俺と同様に硬直した。 「神田……お前それ……」 「ぎゃー! 九条っ、見るな! 絶対に笑うだろ! やめろ!」 「いや、意外にも似合ってて笑えねぇよ……」 神田はしばらく俺の背中に隠れていたが、慎さんと雄二郎さんに無理矢理引っ張り出されて、ついに諦めたみたいだ。 この世の終わりみたいな顔をして、女装姿をみんなにお披露目している……。 「イメージはゆるふわJKっす! かわい子ちゃんのイモ男子とデートでクラブに来た設定っす!」 「なっ……なんで俺だけセーラー服なんだよっ!」 「似合ったんでいいかなって!」 「神田……それ」 そう呟く屋代は何故か、神田のスカートをまじまじと凝視している。 それはもう、穴が空くんじゃないかってくらいに。一体どうした……? 「な、なんだよ」 「いや、下は何はいてんの?」 おそらく下心の無い純粋な疑問だったのだろうが、余裕のない神田は顔を真っ赤にして屋代に掴みかかった。 「いつものボクサーパンツだ! むしろ何をはいてると思ったんだよ!」 「いや、だって……なあ。はいてて欲しいじゃんか、レースのパンツとか紐パンとか?」 「誰がはくかぁぁっ! 気持ち悪いことを言うなっ!」 「あっ、一応チラ見え防止用にブルマーを用意してるっす!」 雄二郎さんが騒ぐ神田を羽交い締めにし、慎さんが神田の足を掴む。その連携の取れた動きによって、神田は一瞬にして屋代から引き剥がされてしまった。 「ぎゃっ!?」 「さすがに男物の下着見えたら不味いんで、これをはいて下さいっす!」 「わー!? やめろー!」 無理やりスカートを捲られて、慎さんにブルマーを履かされる神田。 客観的に見るとかなり不味い絵面で、俺たちは少し離れた場所で彼等を見守っていた。
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