日曜日のクラブ

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そんな誉さんをじっと見つめていると、ふいに目が合った。彼ににこりと微笑まれて、俺は慌てて頭を下げる。 「あの、今日はわがままをきいて下さってありがとうございます」 「あはは、加賀谷くんのわがままならいくらでもきいちゃうよ?」 誉さん……黒髪のせいでいつも以上に爽やか! めちゃくちゃ格好いいっ! 「頑張って慶くんを説得して連れて帰ろうね!」 「はい!」 協力してくれる誉さんたちの為にも頑張らないと……! *** 変装開始から一時間が経過し、ようやくみんなの支度が整った。 誉さんの前には、仕事を終えた慎さんと雄二郎さんが自信満々で仁王立ちをしている。 「誉さん! 全員変装させました!」 「わあ、楽しみだな〜!」 そのゆるい拍手で、俺たちの変装発表会が始まった。 「まずは弟くんっす!」 そう言って慎さんが屋代の手を引く。 誉さんの前に現れた屋代は、真っ黒な髪にまさかの眼鏡。そして何故か今から行くクラブのスタッフ用Tシャツを着用している。 「クラブでバイトするサブカル好き大学生をイメージしたっす!」 「ちなみに瞳もカラコンで黒くしてますっ!」 「おおっ、要! なんだか大人っぽいね!」 「うっ……目に違和感が」 コンタクトに慣れていないのか、瞬きを繰り返す屋代。 なんというか、黒髪の屋代はすごく新鮮だ。意外と眼鏡が似合うし、誉さんに負けず劣らず爽やかで格好良い……! 「次はイケメンくんっす!」 俺が屋代に見蕩れているうちに、次は九条が雄二郎さんに連れられてやって来た。 「本当にこの格好で行くんですか……?」 やたらとテカテカした光沢感のあるチャラいスーツに、シルバーのアクセサリーと高級ブランドの腕時計。 そしていつも綺麗に整えられているダークブラウンの髪を、今日はワックスで遊ばせている。 「あえてイケメンなのを隠さず、ホスト風でゴリ押して行く作戦っす!」 「ちなみに誉さんも今からホスト風にします!」 「ああ、俺と九条くんでホストなんだ? おっけーおっけー!」 「この格好すごい恥ずかしいんですけど……」 まさか優等生の九条がホストにされるだなんて、慎さんと雄二郎さん恐るべし……! それにしても九条と誉さんがホストか……もしも二人が実際にホストだったら、お客さんからものすごく貢がれてそうだ。うん、想像出来る。 「次はかわい子ちゃんっす!」 慎さんの意気揚々とした声に、みんながそろそろと俺を振り返る。 部屋の隅にぽつんと立つ俺を見た瞬間、屋代と九条は大袈裟に眉を顰めて小首を傾げた。 「えっ……何それ」 まるで牛乳瓶の底みたいな分厚いレンズの黒縁メガネに、無造作ボサボサヘアーのウィッグ。 服も至って普通で、無地の白シャツにズボン。 なんと今日は男のままなんだっ! 絶対に女装させられると思っていたから嬉しい……! 「なんかさっきからイモくさいのが隅にいるなと思ってたら司だった……」 「屋代! 酷いな!」 喜ぶ俺を前にして、屋代は明らかにテンションが下がっている。 何でだよいいじゃん、これ。前にされたキャバ嬢よりも百倍いい! 「イメージは田舎から出てきた垢抜けない高校生っす!」 「初めてクラブへやって来た、お上りさんっていう設定っす!」 「うーん……」 そして屋代だけでなく、誉さんもテンションが低い。誉さんは俺の顔を穴が空くんじゃないかってほど凝視して、ガックリと肩を落としてみせる。 「加賀谷くんが……可愛くないっ!」 「だよなあ、可愛いの期待してたのに……めちゃくちゃ陰キャラ」 「別にこれでいいんだよ! 目立たない為の変装なんだから!」 みんなからはすごく不評だけど、俺は女装じゃなくて一安心なんだから!
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