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「はあ?」エリナが不満の声を上げる。
「どー見たってお前が悪い。──奥沢のこと、許してやってくれ」
「はあ」今度はわたしが調子の抜けた声を出す。
「で、なんかあったの?」
彼のあっけらかんとした調子の問いかけに、わたしたちはガクッとする。順序が逆にもほどがある。
「オンナの話に口出さないで。てか部活は? さっさと戻ったら?」
エリナがそう一蹴すると、杉本くんは首を振る。「きのう練習で手首痛めて……」
えっ大丈夫? とわたしは声を上げた。
「杉本」エリナが言った。「このコ、ちゃんと上野まで送ったげてよね。ここんとこメンヘラっぽいから」
「そうなの?」彼がわたしに目を向ける。
「いやなんでもないの。この人大げさだから」
靴を履き替えながらそう言っているうちに、彼女はさっさと歩きだしていた。
「エリナ!」とわたしは思わずその後ろ姿に呼びかけた。「一緒に……行こうよ」
彼女が振り返る。「なんでいまさら」
「べつに……友達と思ってないわけじゃないから」
あっそ。エリナが言うと、わたしたちはともに駅へ向かった。で、なんでケンカしてたの? 杉本くんがまた聞いてくるが、もう済んだことだからとエリナは取り合わない。彼はつまらなそうに舌打ちし、これ以上首を突っ込んでくることはなかった。
駅の改札前にやってきて、わたしはふと立ち止まった。上着とスカート、すべてのポケットに手を当て、カバンも開いた。その果てに血の気が引いた。どうした? と怪訝な顔をする2人にわたしは言った。「ごめん先行って」
「は?」エリナが言った。「忘れ物?」
「うん。ちょっと」
「なに忘れたの」
杉本くんの問いに応じず、「じゃ」とわたしは手を振り踵を返す。
が、彼がすかさずわたしを制止した。「学校戻んの? だったらおれも」
「なに、なんなの?」エリナもわたしの前に立ち塞がる。
「だから忘れ物……」
「もしかして……なんかなくした?」
「……」
「なに。ちゃんと話して」
彼女の詰問調に押され、わたしは言った。「……ないの。定期が」
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