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「ユカにゴスロリ衣装とか」
その瞬間、クラス一同の視線がわたしに注がれた。
***
「なんか楽しみになってきたね!」
明るい調子でそう言ったのはエリナではない。『奥沢ガールズ』のナカちゃんこと中原さんだ。一方でノノちゃんこと岡野さんは「本当に大丈夫?」とわたしを気遣う。そしてエリナはというと不機嫌な表情で言葉少なだった。
電車通学のわたしたち4人はともに駅へ向かっていた。土曜日は掃除が省かれるため、帰りのHR終了後わたしもすぐ教室をあとにしていた。
うんわかった──。クラス一同の視線を浴びたそのとき、わたしはそう答えていた。二つ返事ではないが、かといって抵抗もせずその案を受け入れたわけだ。もちろんそんなわたしの姿勢にみんな驚いたが、これ以上のハマり役はないということで即決定となった。
しかしここで問題となるのは、わたしとペアを組む男子の役柄である。そこでエリナが掲げたのが、ゴスロリ娘が愛犬の散歩をしているという設定だ。つまりイヌ役を男子が務めるということになる。当然、これに男子は猛反発。やれ男性差別だ、やれ人権侵害だとそれこそイヌのように吠えまくった。だから彼氏できねんだオメー!
まさに非難の矢面に立たされてしまったエリナだが、このひと言でとうとうブチキレた。ぶざけんな! とこの時間中に鬱積したと見られる不満を爆発させた。なによあんたら、さっきから女子にばっか意見させてといて。文句あんなら自分でなんか案出してみなさいよ。あ? 石倉っ! 田中っ! 杉本っ! 名指しされた3人の男子は(杉本くんさえも)その剣幕に押されただただしょんぼりするしかなく、そこで時間切れとなる。あーあチャイム鳴っちゃった。コラ男子っ、決めることはちゃんと決めてから帰ってよね。じゃセンセ、あとお願いしま~す。
そんなわけで、いま頃教室では居残った男子がイヌ役を選出しているはずである。双方の立場をおもんぱかってか、「かわいそう」とはしつつも「仕方ないよね」とノノちゃんは言う。すると、ったり前だよとエリナが吐き捨てる。イヌ以下じゃんあんなやつら。
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