ツインテールとシュシュ(1)

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 品川駅の改札を通ったところで、渋谷方面へ向かうナカちゃんとノノちゃんと別れた。わたしとエリナが京浜東北線ホームに下りると、ちょうど隣のホームに山手線の電車が入ってきた。その車内からこっちに手を振る2人の姿が見え、わたしたちは手を振り返した。  それからポツリとエリナが言った。「なんかヘンじゃない?」 「え? なにが」 「きょうのユカ」 「そう?」  たしかにわたしは仮装出演をあっさりと引き受けた。そしてそのことに誰より驚いたのは、あのときその場しのぎの提案をしたエリナに違いなかった。「もしかして、まずかった? わたしが引き受けたの」 「いやそれはいんだけど……」どうも彼女の言葉の切れが悪い。「なんかヘンかなって」  とにかく『ヘン』としか表現のしようがないらしい。いやなんでもないと結局彼女は首を振った。上野方面への電車がやってきたので、この時点でわたしたちは別れた。  変と言われればまったくそのとおりだ。健全な感情の動きの封じられたわたしは、一応普段どおりに振る舞っていてもそこに心はなかった。仮装の件も引き受けたのも拒絶の意思が生じなかったためだ。たぶん、いまのわたしはなにをするにもためらいがない。裸で踊れと言われれば裸で踊るだろうし、死ねと言われれば、それが冗談であっても文字どおりのことをするだろう。そんな、極度の思考停止状態に陥っていたのだから。  家に着く前、『速報』という題名でエリナからメールが届いた。それは、男子の出演者つまりイヌ役が藤田くんに決まったらしいという内容だった。が、藤田くんという名前の人をわたしはまったく知らない。エリナに聞いても、ぜんぜん話したことない人なんでよくわかんないとのことだった。
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