ツインテールとシュシュ(1)

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 そして週明け、わたしはその人と対面することになる。その朝、わたしは10分遅れでHR中の教室に駆け込んだ。すいません人身で! と遅刻の理由を口走ったそのとき、1人の男子が起立していることに気づいた。どうやら彼が選ばれたことを女子に報告している最中だったらしい。汗だくで息を切らせているわたしに、いかにも自分に自信のなさそうな小声でよろしくと彼は言う。はいとわたしが返すと、まるで他人事(ひとごと)のような拍手と歓声が湧き起こった。  藤田くんは色白でやや老けた顔立ちの、いかにも幸薄そうな感じの人だった。身も蓋もなく言い表すなら『地味』で、なるほどたしかにエリナが日常的に会話するようなタイプの男子ではない。そんな彼が日頃人の注目を浴びる機会に恵まれているとも思えず、さぞかし自分が男子代表となってしまったことに戸惑っていることだろう。くじ引きで平等に選ばれたとのことだが、本当にそうなんだろうかと疑念を抱いてしまう。  さて、きょうは河田くんの『告白』を受けて以降最初の平日となる。そこで直面するのが、昼休みをどこで誰と過ごすかという問題だった。教室で友達と? でもこの場合、事情を根掘り葉掘り聞かれることは避けられない。なら1人? でもどこで……。そういったことに思いをめぐらせたとき、かすかに胸の痛むような感覚を覚える。  結局、わたしは前者を選ぶことにした。きょうは休みなんだ例の人。奥沢ガールズにそう話し、3人とお昼をともにした。彼女らとの会話は、いわゆる恋バナとは無縁だった。話題に上ったのはおもに先日のテストのことだ。結果出たら家族会議だわ……。そうため息をついたのはジュリちゃんだ。ぜんぜんできなかったという彼女らの言葉はほとんど建前に違いない。でもわたしにとってはそれが心地よかった。当たり障りのない、等身大の付き合いという感じがした。  しかし、相手がこの人となるとそうはいかない。
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