棺の中で

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『6月24日』 日の出前にこの船に乗り込んだ。潜水艦『未来』。海底にある未知なる生物や資源をこの目で見たいと願っていた。遂に叶うかもしれない。明後日には深海探査用小型潜水艦に乗り換えてまだ人類が踏み入れたことのない領域へ行く。 きっと、有意義な探索になるだろう。 まだ水深1500mのここへ来る間ですら、驚きの連続だった。 海とはなんという世界だろう。ここでは生き物の雄叫びは聞こえない。だが静かに躍動している。 奇怪な形をした魚がうようよと泳いでいる姿に魅入っていたところに、紅い光を放つ蛸が優雅に躍り出てきてそれを捕食した。それは無邪気な子供が蝶の羽を毟るがごとく残酷な光景だった。 息が詰まりそうだ。海の神秘にはただただこうべを垂れるよりない。
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