海底の棺

　あぁ、あの中に。あの物体の中に父がいるかもしれないのだ。僕の名前さえ知らない父が。18年間海底で眠り続けていた父が。
考えるだけでぞくぞくする。真夏にもかかわらず、背筋がぶるりと震えた。
　母は僕の隣でまた泣きだした。その肩にそっと手を置いて囁く。

「母さん、父さんが帰ってきたね。」

母は泣きながら笑って、こくこく頷いた。母さんにとっては、18年間待ち続けた恋人が帰ってきたのだ。