第13章 湯川渓谷の撮影

1/6
前へ
/36ページ
次へ

第13章 湯川渓谷の撮影

 矢崎は、目が覚めた時、自分が何処に居るのか分からなかった。  布団から上半身だけを起して、部屋の中を見回した。床には無造作に服が脱ぎ捨ててあった。また、写真まで散乱していた。  昨夜は不覚にも、石墨と飲んでいる途中で潰れてしまった。どうやら、彼がスィートルームまで運んできてくれたらしい。  時計を見ると、午前9時になろうとしていた。  ベッドから起き上がり、ボサボサの頭をかいた。 「さて、先ずは片付けるか。。」と独り言を言いつつ、散らかった写真を拾い集めてネガと一緒に整理して鞄の中に入れた。  ベランダに出ると、軽井沢のひんやりとした朝の空気が頬を撫でて、ヒタキの澄んだ声が、樹海から響いてきた。    軽くシャワーを浴びてから、撮影の準備をした。それから、出かけようとして、撮影ポイントを確認しとうと思ったが、石墨から渡された手書きの地図がないことに気付いた。  地図には、石墨から依頼された軽井沢の撮影ポイントが書かれていた。しかし、地図がなくても、ガイドブックを見ればポイントは、容易にたどれると、あまり気にせずに部屋を出た。  矢崎はレンタカーに乗って白糸の滝へ向かった。  白糸の滝の駐車場に、たくさんの車が連なっていたのを見て、少しアンニュイな気分になった。  観光客がうじゃうじゃいる時には、良い写真は撮れない。  やはり、もっと早起きして来るべきだった。だが、今更、後悔しても仕方ない。割り切って、観光客で賑わうスポットという構図で撮影することにした。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加