第13章 湯川渓谷の撮影

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 その後、湯川ふるさと公園に向かった。  矢崎は、ホテルから頂戴してきたタオルを首に巻いて、散歩コースを一周してみた。  河畔には、苔が生えた楡(ニレ)の木が生えていた。その木を見て、以前、観光で訪れた北海道大学を思い出した。  北海道大学のキャンパスには、楡の木がたくさんあった。  楡は、英語では、エルムと呼ばれ、北海道大学がエルムの学園と呼ばれる由縁となっている樹木だ。  避暑のメッカである軽井沢の冷涼な気候が、札幌と似ているのだろうと思いながら、シャッターを切った。  遊歩道の先には、芝生の広場があり、周囲を縁取るように白い花が咲いていた。  夏の山路を彩るノリウツギというアジサイに似た花だった。アジサイの花序は毬のように真ん丸だが、ノリウツギは円錐形になっている所がところが違いだ。  公園には、家族連れや、犬の散歩をしている人がたくさんいて、のんびりとくつろいでいた。  矢崎は、自販機でお茶を買い、木陰のベンチに座り一休みした。のんびりと、遊具ではしゃぐ子供たちを見ていると心が和んだ。  不意に、重低音が響いたかと思うと、近くの高架を新幹線が通り過ぎた。それを目にした子供たちが、「あっ、あさまだ」と指を差して嬉しそうに騒いでいた。  いつの間にか、公園のベンチでウトウトしていた。気が付くと、太陽は西に傾きつつあった。何とか日暮れ前に、もう一箇所の撮影を終えないといけない。 「さて、もう一頑張りだ。最後の釜ヶ淵だ」と重い腰を上げた。
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