第13章 湯川渓谷の撮影

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 矢崎は、釜ヶ淵の入口付近のスペースに駐車しようと思ったが、既に車が一台停まっていた。  RVタイプで、後部座席に人がいる気配がしたが、スモークガラスでよく分からなかった。  出来れば退いて欲しかったが諦めて、湯川に架かる橋を渡り、少し林に入った砂利道に車を入れて、林道に駐車した。 「撮影の短い間だけだし、こんな山道で駐禁の切符を切られることもないだろう」 と独り言を言ってから、徒歩で釜ヶ淵に向かった。  釜ヶ淵の入口には、小さな鳥居が立っていた。  傍らには「軽井沢町文化財天然記念物―甌穴」と書かれた杭が立っていた。  説明文によると、『甌穴(おうけつ』というのは、河床の岩盤に形成された円形の穴であると書かれていた。  上から覗くと、川の岩盤に釜や鍋のような円形の穴がたくさん開いていた。  案内板には、河童の伝説に付いても書かれていた。  昔、ここに河童が住んでいて、川に投げた石が、渦に巻かれてクルクルと回るのを楽しんでいた。  河童はそれが面白くて、色んな大きさの石を回しているうちに、釜や鍋や皿のような穴が川底に出来たという伝説だった。  案内板を一通り読んでから、釜ヶ淵の河原へ下りてみた。下り道は、足場が悪く、滑り易いうえに、急峻で、坂というよりは、小さな崖だった。  転んでカメラをお釈迦にしては大変なので、一歩一歩、慎重に下った。  河床の岩盤に、うがたれた狭い水路や、甌穴が不思議な風景を作り出していた。  川上の方には葦が生え、帽子とサングラスをした釣り人の姿も見られた。ここら辺では何が釣れるんだろうか。午前中に行った白糸の滝の売店で、岩魚の塩焼きが売っていたので、おそらく、岩魚なんかが釣れるのだろうと思った。
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