第13章 湯川渓谷の撮影

6/6
前へ
/36ページ
次へ
 矢崎は、撮影に適したポイントを探すために、甌穴を飛び越えて岩盤の上を歩き回った。  先ずは1枚、挨拶代わりに写真を取った。    川原を、うろうろしていると、 「一定雨量を超えると、上流のダムを放水します。水量が急激に増えた場合は速やかに河原から避難して下さい」 というアナウンスが河原に流れた。  何処かにセンサーがあり、動くものを感じると自動でメッセージが流れるようになっているようだった。  スピーカーは何処にあるのだろうと、後ろを振り返ると、釣り人らしき者が、矢崎の鞄を持ち去ろうとしていた。 「泥棒!」と叫んで、全速力で追いかけた。  財布が盗まれるのならまだしも、あの鞄には努力の結晶とも言える写真やネガフィルムなどが入っている。  盗まれてなるものかと必死に追いかけた。  無我夢中で、崖を這い上り、泥棒の足をつかんだ。  泥棒が転んだ反動で、帽子とサングラスが落ちた。 その顔を見て、驚いた。 「なせ、あなたが?」  と呟いた瞬間、泥棒が襲い掛かってきた。  鳩尾に強烈なタックルを受けて、ひっくり返るようにして崖から落ちた。岩盤に後頭部を激しく打ちつけたと思った瞬間、矢崎は意識を失った。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加