第14章 鼻顔稲荷の殺人

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 木内は、状況から死因を推理してみた。  おそらく、ここよりも上流で釣りでもして足を滑らせた。そして、途中で溺れ、この流域で最も流れの淀んでいる鼻顔稲荷の淵で発見された。  もう少し下流に流されていれば、千曲川と合流するから、発見は大幅に遅れただろう。雨後などで、水量が多い時であれば、そのまま日本海まで流されていたかも知れない。  身元が判明するような物は身に付けていなかったが、ベストの内ポケットから押花がはさまった手帳が見つかった。  何れも同じような花で、見開き1ページに1枚の押花が挟まれていた。  押花の脇には暗号めいた「エゾカン」、「ニッキ」、「カルキ」という文字が書かれていたが、さっぱり見当が付かなかった。  地元消防団の協力を得て、現場付近の河原を捜索した所、数キロほど上流で撮影機材が見つかった。  カメラは、三脚にくっ付いたまま倒れ、瀬の川石に挟まれていた。  木内の推理を裏付けるような状況だった。  付近で、聞き込みを行った所、昨日の夕暮れ時に、川の中で写真撮影をしていた人を遠目に見たという証言を得た。  司法解剖の結果、死因は溺死と判明したが、後頭部に挫傷痕も見つかった。  脳内出血が酷く、ほぼ意識不明のまま溺死したと推測された。  死亡推定時間は、昨日の夕刻、午後5時から7時だった。  検死と現場状況からみて、当初の推測通り、撮影中に転倒して河石に後頭部を強打し、意識を失ったまま川に流されて溺死したとみて間違いなさそうだ。
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