第14章 鼻顔稲荷の殺人

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 被害者のカメラのフィルムを、現像してみると、白糸の滝、旧三笠ホテル、雲場池など軽井沢の観光名所が写っていた。  写真内容から、先ず、観光客とみて間違いないだろう。  木内は、軽井沢警察署へ捜査協力の電話を入れた。  軽井沢署の広川婦警は、佐久署の木内から、捜索願の照会を依頼された。  湯川で、身元不明の死体が上がったということだった。  ここ数日で、軽井沢署に出された捜索願は、1件だけだった。  観光に来て、家族と逸れた80歳代の老婦人だったが、町内放送を何度か掛けて、市民の協力を仰ぎ、昨晩無事に見つかった。夏の軽井沢では、日常茶飯事のできごとだ。  今は、観光シーズン真っ盛りで、街は観光客や別荘族で溢れかえっていた。窃盗、迷子、自動車事故などが多発し、軽井沢署は繁忙を極めていた。  軽井沢は観光地だけに、周辺の市町村と比べると宿泊施設が桁違いに多い。  ホテルなどの宿泊施設は、約200軒。別荘は約14000軒、会社や大学の保養所も500軒近くある。  宿泊施設が多いせいもあり、年間の窃盗件数は、250件以上にも達し、特に夏場が多い。  長野オリンピック前に、高速道や新幹線が開通してからは、日帰り客が激増した。  そのため、夏場の観光シーズンには、20万人の観光客が軽井沢にひしめいている。軽井沢の人口が2万人程度なので、一気に10倍になる計算だ。  哀しいかな、人は増えても警察署の署員の数は変わらない。  その分、広川たちの仕事は増える一方だった。  本音を言うと、ただでさえ仕事が多くなる観光シーズンに、厄介な事故や事件は、抱えたくなかった。
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