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犬養と名乗る情報提供者は、仕事が休みだという事で、佐久署まで足を運んでくれた。
年齢は29歳ということだったが、見た目は若々しく25歳ぐらいに見えた。話し振りは、しっかりしていて、人懐っこい感じの青年だった。
木内は、一通り話を聞いてから遺体の確認を頼んだ。
地下の死体安置所には、白布を被った遺体が横たわっていた。
顔隠しの布を取ると、犬養はハッと息を飲んで、口を手で押さえて小刻みに震え、青ざめた顔で言った。
「間違いありません。矢崎さんだと思います…」
木内は、犬養を応接室に通した。
犬養の目にはうっすらと涙が浮んでいた。
「犬養さん。矢崎さんについて詳しく話してくれや」
「僕の勤めているホテルの宿泊客でした。僕の描いた絵に興味を持ってくれたのが縁で、彼とは何度か話をさせてもらいました」
「と言うと、彼は画家か何かですか?」
「いえ、アマチュアのカメラマンです。でも実力はかなりのものでして、軽井沢のフォトコンテストで優秀賞を取ったんです。その表彰式への出席を兼ねて、軽井沢に来たらしいです」
「それで、あんたのホテルに宿泊していたという訳か。所で、彼は、何か気になるようなことを言っていたかい?」
「気になる事と言う程ではないですが、専務とかなり親しかったようです」
「ほお、専務と言うのは、あんたのホテルの専務ということだな。えーと、あんたのホテルの名前は、何だったかな?」
「軽井沢ヴィラ・ヘメロカリスです」
「えーと、軽井沢ベロ・ヘロメカスリっと。何だか、舌を噛みそうな名前だなあ」
木内は、手帳にメモした。
「ベロ・ヘロメカリスではなくて、ヴィラ・ヘメロカリスです」
犬養が、苦笑した。
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