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という事は、これは、殺人事件ですね」
犬養は、さらりと言った。
「何だと、殺人事件だぁ?」
木内は、素っ頓狂な声を上げた。
「えぇ、間違いないと思います」
「馬鹿な事を。何を根拠に、あんたはそんな事を言うだ?事故だよ、事故。一歩譲って、釜ヶ淵で滑って流されたとしても、間違いなく事故だ。素人さんが、拙速に結論を出しては困りますな。警察では、この件は事故で間違いないという結論に至っているんだよ」
木内は、面白くなさそうに言った。
「矢崎さんの車が、釜ヶ淵付近に置いてあった事と、写真の最後が釜ヶ淵だったと言う事は、辻褄が合います。それに、彼が、釜ヶ淵で足を滑らせて流されたとしても、決して佐久の鼻顔稲荷まで流される事はありません」
「いやいや、水量が多ければ、川の流れの勢いは凄まじいものがある。あんた、自然の力を侮ってはいかんよ」
木内は、譲らなかった。
「どんなに水量が増えただとしても、不可能です」
「全く、馬鹿たれが…何が不可能だ。これだから素人は困る」
木内は、鼻で笑った。
「不可能です。湯川ダムが、決壊しない限りね」
「あっ、そうか、湯川ダムがあるか…」
木内は、そう言って、絶句した。
「湯川ダムは、軽井沢町と佐久市の中間の御代田町にあります。断崖絶壁の渓谷に建設された貯水ダムで、上流から流れて来た漂流物は、ネットに引っかかって下流には流れない処置が施されています」
「それは、俺も知っとるだよ」
木内は、眉間に皺を寄せて、口を尖らせた。
「矢崎さんが、釜ヶ淵で流されたとしても湯川ダムより下流には流されることはありません」
「確かにそうですね」
隣から金子が、賛同した。
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