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沈黙を続ける木内に向かって、犬養が続けて言った。
「さらに、矢崎さんのカメラが、遺体発見場所の数キロ上流で見つかったという事は、明らかに犯人が、偽装したということです。警察は危うく、引っかかる所でしたね」
木内は、幽霊でも見るような目で犬養を眺めた。
それから一つ大きく深呼吸をしてから言った。
「先ずは、釜ヶ淵付近で見つかった車が本当に、ホトケのものか確認する必要がある。それに、ホトケが本当に、矢崎誠治と決まったわけじゃねぇからな」
「それは、僕が嘘を付いているという意味ですか?」
「そうは言っていない。生き顔と死に顔は、別人のように見えるもんだ。家族でも見分けがつきにくい事も多々ある。それを、数回会っただけのあんたの証言で決めるのは、早計っつうもんだ」
「間違いなく、矢崎さんだと思いますが…」
「最終確認は、親族の確認で判断するよ。すまないが、ちょっくら、あんたも軽井沢署まで同行してくれや」
「いいですよ。どっちみち、軽井沢に帰るつもりだったんで」
木内と金子は、ボロの覆面パトカーに乗り、軽井沢署へ向かった。犬養はその後ろに続いた。
車窓からは、浅間連峰の三つの山が見えた。
右から順番に、浅間山、剣ヶ峰、黒斑山と、バランスの取れた山容が美しかった。
浅間山は、富士山のようなスロープを持ち、女性的な山容を呈している。
剣ヶ峰は、その名の通り剣のように山頂が尖がっている。
黒斑山は、数万年前の水蒸気爆発の名残がそのまま山に刻まれていて、牙のようにギザギザとくびれていた。
軽井沢から見る浅間山も美しいが、佐久から見る浅間山も違った美しさがある。
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