第10章 石尊山と追分宿

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矢崎は、レンタカーで写真屋に向かった。  そして、石墨から頼まれた例の写真を、大判サイズで焼増しを注文した。その後、写真屋を出てから、石尊山(せきそんさん)の登山道に向かった。  石尊山の山頂からの風景写真が、石墨から依頼された軽井沢の写真の一つ目だった。  石尊山というのは、浅間山の寄生火山の一つで、麓から見ると小高い丘のように見える山で、山頂まで2時間ほどで登れる。  登山口の駐車場に車を停めてから、三脚を担いで登り始めた。  鬱蒼とした松や樅(もみ)の森が広がっていた。道すがら、沢山の野草が咲いていたが、休憩なしで山頂を目指した。  立ち止まって撮影したいのは山々だったが、雲が出ないうちに山頂に付かなくてはいけなかった。  熊鈴を鳴らして、登ること2時間半。ようやく山頂に着いた。  照り付ける日差しは強烈で、吹き出る汗が、しばらく止まらなかった。ホテルから拝借してきたコットンタオルで汗を拭った。  息を整えてから、浅間山を眺めた。  噴煙が眼前に迫(せま)り、古い噴火口が巨大な口を開けていた。食べられてしまいそうな迫力で、微かに硫黄系のガスの臭いが漂ってきた。その臭いが、浅間山が、生きた火山であることを、より実感させてくれた。  浅間山の写真を何枚か撮った後、石墨に指示されたように、山麓の森の中を見渡してヴィラ・ヘメロカリスの建物を探した。  緑の絨毯(じゅうたん)の中に、ポツリと白亜のホテルが見えた。  望遠レンズを付けて、ズームを効かせて、ホテルの写真を撮った。
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